知見・論考
設計理論式DX:人に依存しないメカ設計を実現させるソリューション
設計理論式DX
近年のデジタル化により設計の効率化は進んでいるものの、人依存の側面が残っていることで品質の作り込みに課題が残っています。その結果として市場への不具合流出や開発遅延が問題であり続けています。本知見・論考シリーズでは、設計品質の担保を設計者の能力に依存させず、不具合流出や開発の後戻り/遅延を撲滅できる設計環境の実現のために、当社が提案する“理論式DX (Digital Transformation)”について述べます。
従来の人依存のメカ設計アプローチ
昨今の益々多様化・高度化する顧客要求に応えるために、エレキ・ソフト技術とのマルチドメイン化等、メカ設計には過去にはなかった多くの難しい設計課題が突き付けられています。メカ設計領域だけでも、マルチフィジックス現象への対応などがあります。人間には処理し切れないほどの多数のパラメータを考慮したり、理論的・経験的に十分に解明できていない設計課題に対応したりしなければなりません。
ところが、現行のメカ設計現場では、新しい設計課題に対して編集型という不適切なアプローチにより、不具合流出や開発遅延に繋がっているケースがよく見られます。ここで言う編集型のアプローチとは、過去製品の3Dモデルを編集して新製品の3Dモデルを作成し、CAEによる設計検証へ繋げるというアプローチです。過去製品と同様の派生製品であれば、過去の設計資産を流用する方法は効率的で、エキスパート設計者の経験も活かすことができます。しかし、新しい設計課題に対しても、合理的な理由もなく、過去製品を起点にしているケースが目立つのです。新しい設計課題には、過去の設計資産やエキスパート設計者の経験の活用だけでは十分に対応できません。その結果、新技術要素への対応を見逃して後から品質の追い込みに延々と時間を要したり、市場への不具合流出させたりしてしまうことになっています。新たな設計課題に対応するためには、人に依存しない設計のやり方が必要になります。
設計における定量モデルの重要性
新たな設計課題に対応し、人に依存しないメカ設計を実現する鍵は、設計上流における「定量モデル」の作成・活用にあります。本稿でモデルとは、顧客が要求する製品の本質を論理的・客観的に表現したもので、その表現行為がモデル化ないしモデリング [1,2] です。定量モデルとは、設計対象(製品・機能)を数値で扱える数式などの形式で表現したものです。設計対象を定量モデルとして捉えることは、人間ではできない大量の演算をコンピュータで行わせることができるようになり、人依存を脱却するための重要な足掛かりとなります。
設計上流から定量モデルを作成・活用すれば、効率化と品熟の早期化に繋がります。上流でコアとなる機能に対して精緻な定量モデルを作成すれば、設計のゴールが明確となり、その後の詳細設計を進めやすくなります。設計・検証を進める中で得た具体的な情報を徐々にモデルに加味して行くことで、3D-CAEとしてより現実に近い詳細な最適化にスムーズに繋げることもできます。こうした設計上流からの定量的モデルを使った設計~検証の考え方は1DCAE [3,4] と呼ばれ、設計上流で品質を作り込み、後工程・市場への不具合流出や遅延を減らすために強力なアプローチとなります。
メカ設計における定量モデル作成の難しさ
しかし、従来の定量モデル作成は人依存の側面が強く、定量モデルの作成・活用の足かせとなっています。設計上流における定量モデルは、製品(ないし機能)を抽象化して数式で表現したものです。その数式の作り方には、物理学的な原理・法則や数学的な定理といった理論から導く演繹法と、実験等の経験上のパラメータ間の関係を式で表す帰納法の2通りがあります。構造に流体や熱等の複数の物理現象が絡み合ったマルチフィジックスで複雑な現実の現象を扱うメカ設計においては、帰納法が有効な場合が多いです。しかし、帰納法にしても、人間がコントロールまたは考慮できるパラメータの数には限界があります。また、限られたパラメータを想定した実験をやるにしても、実験条件の整備を含めた準備や多数回の連続実験を行うには、時間を含めた多くのリソースが必要となり、人間にとっては大変です。新たな設計課題となっている複雑な現実の現象を定量的にモデル化するには、人間の能力が制約となっているのです。
定量モデル作成の方法論:理論式DX
当社では、定量モデル作成の方法論を含む設計上流からの脱人依存の設計の変革を、“理論式DX”として提案しています。当社の定量モデル作成の方法は、AIを含む統計的手法やコンピュータ上での実験を活用する帰納的アプローチです。従来の現実の実験による帰納法と比べ、人間の能力で扱えなかったパラメータ数や実験回数・時間が考慮可能になります。たとえば、温度・湿度といった実験条件の影響、多数の部品間の関係、流動と熱といったマルチフィジックスの考慮、場合によっては分子レベルのミクロな条件の考慮など、従来設計者が考慮できなかったり、見逃したりしていたパラメータや関係性を考慮できるようになります。また、時間帯を問わない連続実験も可能となり、短時間で膨大な実験結果を得られることになります。当社の定量モデル定量方法は、設計上流から適用可能であり、これまでなかなか難しかった設計上流の脱人依存化を推進させ、1DCAEが理想としていた上流での作り込みが現実的になります。より詳しい定量モデル作成の方法論については次回説明します。
参考文献および補足
[1] https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/22/news007.html
[2] 本稿で説明する「定量モデルを使った設計」は、モデルベース開発(MBD)[2,3]と言い換えても構いません。しかし、MBDという言葉には、MatlabやModelica等を使った自動車/ロケット等の制御システム設計という、ソフトウェアベンダー視点のイメージを持たれることが多くあります。そのため、本稿では敢えて「モデルベース開発(MBD)」という表現は使っていません。
[3] https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2112/21/news006.html
[4]https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2012/07/67_07pdf/a03.pdf
[1] https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/22/news007.html
[2] 本稿で説明する「定量モデルを使った設計」は、モデルベース開発(MBD)[2,3]と言い換えても構いません。しかし、MBDという言葉には、MatlabやModelica等を使った自動車/ロケット等の制御システム設計という、ソフトウェアベンダー視点のイメージを持たれることが多くあります。そのため、本稿では敢えて「モデルベース開発(MBD)」という表現は使っていません。
[3] https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2112/21/news006.html
[4]https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2012/07/67_07pdf/a03.pdf