知見・論考
物流シミュレーション/予測技術が進化しても実行するべきSCM改革は変わらない
研修
昨年末の社内勉強会(2021年12月開催)の概要を紹介します。当勉強会では、ジャーナル記事 [1]を題材としてサプライチェーン・マネジメント(SCM)について議論しました。
注目されているAI「デジタルツイン」
題材記事 [1]は、半導体不足などの物流課題に対し、AIを使ったデジタルツイン(AI「デジタルツイン」)が利用されはじめていることを報告しています(表1)。
その物流課題の背景は、生産/物流方式の理想であるジャストインタイム(JIT)の弱点です。多くの製造業は、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」作り届ける(JITの理念)ために在庫極小化に努めています。しかし、何らかの不測の事態により物流が停止した際、生産/物流が玉突き的に止まってしまうのです。その実例が、9.11同時多発テロや東日本大震災での物流網断絶、昨今の半導体不足です。
対策として注目されている「デジタルツイン」とは、現実の工場/サプライヤー/販売店などを仮想空間に写し取ったものです。さらに、これにAI(深層学習)を適用し、様々な配送パターンをシミュレートできるようにしたものが、AI「デジタルツイン」という訳です。題材記事では、在庫・出荷量、気象データなど、現実のデータをAI「デジタルツイン」に入力することにより、災害などの物流リスクの予測やその際の最適な対策を見出せることが紹介されています。
その物流課題の背景は、生産/物流方式の理想であるジャストインタイム(JIT)の弱点です。多くの製造業は、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」作り届ける(JITの理念)ために在庫極小化に努めています。しかし、何らかの不測の事態により物流が停止した際、生産/物流が玉突き的に止まってしまうのです。その実例が、9.11同時多発テロや東日本大震災での物流網断絶、昨今の半導体不足です。
対策として注目されている「デジタルツイン」とは、現実の工場/サプライヤー/販売店などを仮想空間に写し取ったものです。さらに、これにAI(深層学習)を適用し、様々な配送パターンをシミュレートできるようにしたものが、AI「デジタルツイン」という訳です。題材記事では、在庫・出荷量、気象データなど、現実のデータをAI「デジタルツイン」に入力することにより、災害などの物流リスクの予測やその際の最適な対策を見出せることが紹介されています。
SCM改革の本質は変わらない
勉強会では、題材記事を踏まえ、製造業が実行するべき対策について考察しました。我々が出した結論は、AI「デジタルツイン」が登場しても、実行するべきSCM改革の本質―「平時の整流化&ルール化、有事の意思決定」―は変わらない、ということです。以下では、まず当社が従来から論じているSCM改革と設計改革の視点を以下に概説します。
欠品による機会損失や残材の削減を考えるための視点には、大きく3つあります(図1)—(1)顧客訴求力、(2)需要可視性、(3)パーツ流用性。ただし、(1)・(3)は設計改革の視点です;(1)顧客訴求力を十分高くすれば、顧客は待ってくれるので、機会損失なく残材発生リスクを抑えられます。(3)パーツ流用性を高くすれば、ある商品向けに購入した部品が残材になっても、別の商品へ転用できるため、機会損失/残材発生リスクを低減できます。
機会損失/残材を減らすためのSCM改革の視点は、(2)需要可視性の向上です。これには3つの改革の方向性があります;
① 需要変動の規則性が見出せれば、その規則通りに在庫を準備できます。
② 業務プロセス改革(BPR)により、調達や生産といったバリューチェーン上の各工程のLTを短縮化できれば、需要予測したい日までの期間が短縮でき、需要の可視性が上がります。
③ ITの導入等により、需要/リスク予測精度の向上、市場/受注データを高頻度取得による情報鮮度の確保などができれば、在庫を必要最低限に絞ることができます。題材記事が紹介したAI「デジタルツイン」は、③の中でも予測精度に着目した対策と言えます。
機会損失/残材を減らすためのSCM改革の視点は、(2)需要可視性の向上です。これには3つの改革の方向性があります;
① 需要変動の規則性が見出せれば、その規則通りに在庫を準備できます。
② 業務プロセス改革(BPR)により、調達や生産といったバリューチェーン上の各工程のLTを短縮化できれば、需要予測したい日までの期間が短縮でき、需要の可視性が上がります。
③ ITの導入等により、需要/リスク予測精度の向上、市場/受注データを高頻度取得による情報鮮度の確保などができれば、在庫を必要最低限に絞ることができます。題材記事が紹介したAI「デジタルツイン」は、③の中でも予測精度に着目した対策と言えます。
さて、AI「デジタルツイン」により③予測精度向上をすれば、JITの弱点を克服できるでしょうか?残念ながら、どんなに予測技術が発展しても、予測精度を上げるには限界があります。決定論的な(確率100%に近い) 需要/リスク予測は現実的ではないのです。つまり、AI「デジタルツイン」を導入しただけでは、完全な課題解決にはならないと言えます。実際、昨今の半導体不足は現時点で収まる気配はありません。題材記事のタイトルに「help weather(困難な状況を安全に乗り切ることを助ける)」という表現が使われていますが、「help overcome(障害となる問題をうまく制御し通すことを助ける)」でないことは絶妙と言えるでしょう。
予測精度向上に限界があるとすれば、②情報連鎖の遅延の視点が不可欠となります。つまり、バリューチェーン上の各業務を整流化&標準ルール化し、普段から各L/Tを短縮化しておくことが重要ということです。しかし、業務整流化&ルール化が十分できている企業はあまりありません。実は、従来から多くのサプライヤーは「隠し在庫」を持っていたため9.11同時多発テロ時にもある程度柔軟に対応できたそうです。それも業務整流化&ルール化が十分でなく、平時からJITが十分機能していないことが一要因だと推測できます。
もう一つ重要なポイントは、有事の意思決定です。いかに平時から②情報連鎖の遅延を減らしておいても、いざリスク発生時に意思決定できなくては無意味です。そのためには、平時に意思決定者や意思決定の仕方を明確にしておく必要があります。しかし、これも特に日本の多くの製造業はできていないことが実態です。このことに関しては、PLMに関する知見・論考の中で詳しく論じる予定です。
まとめ;
・AI「デジタルツイン」によるリスク予測・最適化はJITの弱点克服の一助となる
・しかし、予測精度向上だけでは限界があり、完全な対策にはならない
・予測が外れるという前提では、平時の整流化&ルール化、有事の意思決定が重要である
・AI「デジタルツイン」によるリスク予測・最適化はJITの弱点克服の一助となる
・しかし、予測精度向上だけでは限界があり、完全な対策にはならない
・予測が外れるという前提では、平時の整流化&ルール化、有事の意思決定が重要である
参照文献
[1] https://www.technologyreview.com/2021/10/26/1038643/ai-reinforcement-learning-digital-twins-can-solve-supply-chain-shortages-and-save-christmas/
日本語版(有料): https://www.technologyreview.jp/s/259580/how-ai-could-solve-supply-chain-shortages-and-save-christmas/
[1] https://www.technologyreview.com/2021/10/26/1038643/ai-reinforcement-learning-digital-twins-can-solve-supply-chain-shortages-and-save-christmas/
日本語版(有料): https://www.technologyreview.jp/s/259580/how-ai-could-solve-supply-chain-shortages-and-save-christmas/