株式会社メディオクリタス

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感動体験×逆転キッチン対談

感動体験から逆転キッチンへ

対談メンバー

原田 和秀

代表取締役社長 兼 CEO

池田 和寛

マネージングダイレクター/感動体験、逆転キッチン著者

―感動体験から逆転キッチンへと執筆した経緯をお話しください。

池田
感動体験を執筆した時、すでに日本の社会はモノ余りの世界になっていて、普通に製品を出しても売れない状況でした。製品の機能・性能の良さで世界を席巻してきた日本企業はグローバルで戦えなくなってきていて、限界が来ているのではないかと思っていました。だから、これからは不満・不便の解消以上の価値を提供する製品設計をしていかないと難しくなってきますよ、というのが感動体験で伝えたかった事です。モノからコトへ、機能価値から感性価値へ、という流れですね。
一方、逆転キッチンを書いたきっかけは、そもそも今までと根本的に違う製品が生まれないのは企業上層部における意思決定上の問題ではないか、と感じ始めたからです。本の内容は、主人公たちが今までにない商品の企画に奮闘するストーリーですが、上層部に意思決定を促すにはどうしたらよいか、を伝えたくて書いた本です。

―企業上層部における意思決定上の問題を感じたのは、どんな時ですか?

池田
事業環境が変化して新規事業の立ち上げが急務になっているにもかかわらず、一歩踏み出せない場面を見た時ですね。新規事業企画とは、見えない世界を創るということ。しかし、生え抜きで幹部になった方々の多くは、正解のない仕事に躊躇するのでしょう。その中でたとえば、モノからコトへと話したところで、こちらが実際に企画に入っていかないと動かないという状況がありました。だったらメディオクリタスがそこも実際に手を動かしましょう、という話になったのがProject 01の始まりです。ある企業幹部と時間をかけてディスカッションを重ね、最終的には新規事業ネタを社長に提案してGoがかかりました。この一連の意思決定プロセスについて、ある程度のメソドロジーが固まってきた段階で、これってきっと日本企業の多くが困っているところだろうと思い、わかりやすいストーリー仕立ての小説として出版して、コンセプトを伝えていきたいと考えたのです。

―時代が変わってきたということでしょうか?

原田
感動体験を出版した2012年頃は、欧米を中心に、モノと合わせたサブスクリプション型サービスがどんどん台頭してきたころで、日本のメーカーだと、パナソニックさんだとかソニーさんとかがモノだけで勝負してもなかなか戦えない時代だった。
メディオクリタスを創業した頃から、感動体験を出版した当時、さらには今も、モノづくりにおいて一貫して言えることは、マスプロダクションからマスカスタマイゼーションへ、より顧客に寄り添うアプローチが必要ということ。
ただ、感動体験を出版した頃は、カスタマイゼーションの在り方がハードウェアだけでなく、エクスペリエンスを含めて、全てを対象とする事ができる時代になってきた。モノだけではなく、体験を通じて感動へと繋がるようなアプローチをしなければならないよね、ということが1番のメッセージだと思う。
池田
そのエクスペリエンスという考え方がその後、モノ作りだけでなくあらゆる産業・業態に広がっていったと思うんですけれど、逆転キッチンを執筆した時期になると、体験の在り方がなかなか見いだせなくなってきたんだと思います。
要は感動体験を執筆した時期はまだまだ体験が限られてしまっていたので、音楽配信を含めイメージしやすかったんですが、それから10年近くたってくると、体験を中心としたサービスがたくさん出てきてしまって、ほとんどのことでユーザーはなかなか満足しなくなってしまいました。
つまり、差別化が図りにくくなってきたということです。
満たされている時代においては、お客さんにニーズを聞いても特に何も答えてくれない、だから、お客さんに何が欲しいか聞いて商品を考えるという時代ではないのではないか。
であれば、今までにないものの考え方で商品を産んでいかなければならない。ユーザーに聞いて不足を補うようなものづくりや体験を作りこむのではなくて、企業側が未来を想定して、こんなものがあったらいいんじゃないかという、逆引きでモノづくり・体験を考えていかなければならない。そういう問題意識から書いていったのが逆転キッチンの本でした。
原田
僕が思ったのは、時代背景が変わって求められていくというのもあるんだけど、実は、今の時代だから感動体験が生きないのではなくて、企業のステージによると思うんだよね。今その企業がどのステージにいて、お客さんがどのステージで満足しているのか。もし不足を補うところでニーズがあるのならば、ハードウェア的な機能向上やマスカスタマイゼーション、一歩すすめて、感動体験の世界でいいと思うし。ただその産業の中で、お客さんがある程度のものを手に入れてしまっていて、大体のことはできるよねってなっていたら、エクスペリエンスも含め、現在の延長線上にない未来から考える・意思決定をするステージに企業はいる。そんな企業には逆転キッチンのほうがいいんじゃないのかなあと。そんな風にこの2冊をとらえています。

―これからの日本の製造業はどうなっていくと思いますか?

池田
相変わらず体験価値をおさない会社が多い。そもそもハードウェアがある製品っていうのが厳しいのかもしれないんですけれど、そこは日本の企業には頑張ってもらいたいと思っていて。ソフトウェア技術が重要なのは言わずもがなですが、なんだかんだ言って、日本はエレキとかメカが得意な国なのかなと思っていて。そこがありつつの体験を押すという方向で製品をどんどん出してほしいなと思っています。
原田
僕は日本の強みはプロダクトというのはもちろんあると思うんだけど、本質は、茶道の世界観に似ていると思っている。豪華さではなく、統一化された世界観。軸・器・花から手前・対話まで、ひとつひとつのコンテンツを、テーマ性をもって、一つの世界観としてまとめ上げていく。これが日本の強みなのだと思う。だとすれば、やるべきことは、いいものを作り上げることではなくて、感動や共鳴に繋がる世界観なんじゃないのかな。つまり、エクスペリエンス。世界観をもって統一的なユーザー体験を作り上げていくこと。そんなことが日本の企業に求められているんじゃないかな。器だけじゃ買わない。旅館や茶会など、世界観としての場、エクスペリエンスを作り上げることが大事なんだと思う。 だから感動体験をもう少し進化させて、ユーザー個別の、または、個別のユーザーが共鳴できる細分化された世界観の中で、自分たちのプロダクトであるとか外部のコンテンツを組み合わせていくこと。おもてなしって、丁寧にやることではなく、相手のことを思って自分ができうる最善のことを、細部に渡ってやっていくから感動につながるんだと思う。相手のために世界観を作り上げていく。それを一人一人に合わせていく。それがマスカスタマイゼーションの本質だと思うし、感動体験でいうエクスペリエンスなんだと思うんだよね。個に向き合って体験を積み重ねる事がおもてなしの本質とするならば、感動体験は今の企業に依然として重要なテーマだと思う。また、顧客に対する世界観の提示には、逆転キッチンで言うところの、未来志向のアプローチが必要だと思っている。
池田
日本の製造業の頑張り方が違うなとずっと思っていて、いろんな本を書いているんだけれど、なかなか動かないなと思っています。だから一人でも多くの人に知ってほしいと思っています。日本の製造業には頑張り方をかえてほしい。今までのやり方の延長に正解はないですから。

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